私はダンケルフェルガーの領主候補生、リンツヴァルター。
貴族院の四年生だ。
どうやら、今年隣領のアレキサンドリアから領主候補生が入院するらしい。
そのためダンケルフェルガー寮内は少し騒がしい。
「礎を賭けた戦いで名を馳せたアウブ・アレキサンドリアとディッターの魔王と恐れられたフェルディナンド様の御子様である!無類のディッター好きに違いないぞ!」
「うおおおおおお!」
「リンツヴァルター様!ぜひアレキサンドリアとディッターを!」
「ディッターを!」
朝からずっとこの調子だ。
正直呆れている。
相手はついこの前、洗礼式を受けたような子供だぞ。
本気でディッターが出来るわけがないではないか。
親睦会に赴くと噂の領主候補生と出会えた。
美しい水色の髪に、透き通るような金瞳。
優雅な動作と身に付けている繊細な装飾品は、流石大領地の姫といったところか。
挨拶を交わし合った後で一言姫が付け足した。
「ダンケルフェルガーはライデンシャフトの加護厚き領地。ともに励み合うことでアレキサンドリアもライデンシャフトの加護が得られたら、と思います」
ん?
つまりは、ダンケルフェルガーとディッターがしたいということか?
「其方の望みは分かった。ダンケルフェルガーもやぶさかではない。後で文官を遣わそう」
あまり気は進まぬが、これで寮内の学生たちも落ち着くだろう。
……いや騒ぎ出すかもしれぬ。
「……ありがたく存じます。お待ちしております」
まだ幼さの残る愛らしい顔で、姫はニコリと微笑んだ。