ペンを額に

霜月のブログ。当ブログは記事に大いに作品のネタバレを含みます。合わない方はバックしてください。

美しいひと

美しいあのひと
ようやくお側に仕えることが出来るの

繊細な婚約の魔術具を手に取り、慎重にローゼマイン様の首にお掛けします
キラキラと眩い光を放つ虹色魔石の簪が揺れ、豪華な衣装に身を包んだローゼマイン様は麗しの若きアウブです
いつ見てもその美しさにうっとりとします

ローゼマイン様の御仕度が整ったところで、フェルディナンド様が診察も兼ねた朝のご挨拶にやってきました
毎日ローゼマイン様に仕えているわけではないわたくしが毎回お会いするということは、おそらく毎朝来ていらっしゃるのでしょうね
少し過保護すぎるのでは、と思うのはわたくしだけでしょうか?

フェルディナンド様のエスコートでローゼマイン様が執務室に向かわれました
執務中の側仕えは最低限でいいので、余ったわたくしたちは主のいないうちにお部屋を掃除し整えるのが仕事になります
お部屋の換気、シーツ類の取り換え、お花のお手入れ、水回りのお掃除、各種魔術具への魔力供給
そして最後に、床をヴァッシェンで一気に綺麗にします
アウブのお部屋で紛失などあってはならないので、掃除の魔術具は使いません

お昼はアウブからの下げ渡しになります
少しマイルドな味のそれは、きっとエーレンフェスト出身のローゼマイン様のお好みに作られているのでしょう
伴侶となられるフェルディナンド様もエーレンフェスト出身ですから、食事はどうしてもエーレンフェスト寄りになります
確かに美味しいですが、わたくしにはもう少し辛さが必要みたいです

昼食を食べ終えると配置交換です
わたくしは午後の執務をするローゼマイン様の傍らに待機します
意外に思われるかも知れませんが、わたくしはこの時間が殊の外好きです
ペンを持つ美しい手、書類を読む横顔、臣下へ指示を出すお声
凝視するのはあまりにも無礼ですから、それとなく伺う程度ですけれど側仕えの仕事をこなしながら時折盗み見ます

午後の執務を終えられるとローゼマイン様は着替えのために一旦私室に戻られます
着替えのお手伝いをし、食堂に行かれる主を見送りました
これでわたくしの本日のお勤めは終了になります
最後にローゼマイン様の私室におかしな場所は無いかと最終確認していた時、わたくしは床にそれが落ちているのを見つけました
なぜでしょう、確かにヴァッシェンしたはずなのに
……ああ、そうでした
ヴァッシェンは自分が汚れと認識したものしか綺麗にしないのです
わたくしはそっと、ポケットに、その短い水色の髪の毛を仕舞いました