ペンを額に

霜月のブログ。当ブログは記事に大いに作品のネタバレを含みます。合わない方はバックしてください。

盤上遊戯(ユストクス視点)

領地名が変わり、フェルディナンド様の肩書が中継ぎアウブの婚約者から初代アウブの婚約者となると、ものの見事に周囲の貴族たちのフェルディナンド様への対応が変わった。

主にとってこちらで過ごしやすくなったことは非常に好ましいことだが、全くもって面白くはない。
まるでエーレンフェストでヴェローニカが白の塔に追いやられた後の、エーレンフェスト貴族たちと同様の手の平返しだった。


午後、執務の小休止がてらローゼマイン様が考案されたというリバーシを持ってきて、お二人に婚約者同士のひとときを過ごしてもらう。


リバーシは別名『オセロ』とも言いまして、それは敵味方が目まぐるしく入れ替わる『オセロ』という戯曲からとられたのです」

パチンとローゼマイン様が白を置き、白に挟まれた黒をひっくり返していく。

「こうすると……次々に形勢が変わってゆきますでしょう?」

「ほう……つまりこの色は派閥を表しているということか?」

フェルディナンド様が黒を打ち込むとローゼマイン様の白の派閥は若干不利になった。


なるほど、なるほど。つまり盤上でクルクルと激しくひっくり返される、この中央の駒たちは下級貴族や中級貴族なのかも知れぬ。


ローゼマイン様が角に白を置いた。
しかし、すでに挟むべき時を逃している。
ニ辺の黒はびくともしない。
まるで上級貴族に相手にされない領主候補生のようだ。
白い駒が虚しく光る。

最後のほうは駒を置ける場所も少なくなるようで、至極あっさりと終わった。

「ふぅ、やっぱりフェルディナンドには勝てませんね」

ローゼマイン様は大して悔しがる風でもなく、そのままエーレンフェストの冬の神殿の思い出話をし始めた。


終了した盤上の駒たちはほとんどが黒だ。
わたしは盤上をじっと見遣る。
そうだ貴族など、挟んでしまえば簡単に派閥を変えるこの駒のようなもの。
ならば、多くの貴族が手の平を返した今が好機。
アレキサンドリアの領地の駒を一つ残らずひっくり返そう。
さぁ、盤上遊戯を始めようではないか。