ペンを額に

霜月のブログ。当ブログは記事に大いに作品のネタバレを含みます。合わない方はバックしてください。

君ある故郷と半分こ②

「シーナローゼ、寮にはすでにファランディーヌとラウルヴィンデがいるので安心しなさい」
「初めての貴族院は緊張するものです。二人の言うことをよく聞いて、たくさん学んできてくださいね」
今年十歳になるシーナローゼは冬の間、貴族院に通う。
長女で最終学年のファランディーヌと、長男で四年生のラウルヴィンデはすでに寮へ移動している。
「はい、お父様、お母様。行ってまいります」
若葉色の髪には当たり前のように最高級の花の髪飾りと虹色魔石の簪がつけられている。
アレキサンドリア領主一族にとってこれは家族の印、家族の想いだ。
ファランディーヌからは他領生から羨望や嫉妬の目を向けられたと報告があったが知ったことではない。
そんなものを向けるのなら己が両親に強請れば良いだけだ。
次女が転移陣でアレキサンドリア寮に転移したのを見送ると、ついこの間洗礼式を迎えたばかりの末娘が膨れていた。
「どうした、ゲラースヴァーネ」
「お姉様たちだけ、ずるいです」
シーナローゼがいた方向を恨めしそうに見続けている。
末娘は自分を構ってくれる人たちがいなくなるのにお冠らしい。
「其方の姉も兄も、貴族院に遊びに行ったのではないのだぞ」
「…わかっております」
理解していても、納得は出来ないらしい。
「そうだわ、ゲラースヴァーネ!」
ローゼマインが良い事を思いついたように満面の笑みを末娘に向ける。
ああ、頭の片隅で警鐘が鳴る。
ローゼマインを抑えた方が良いだろうか。
しかし、ゲラースヴァーネを慰める術を自分は知らない。
ここは任せるしかないか。