ペンを額に

霜月のブログ。当ブログは記事に大いに作品のネタバレを含みます。合わない方はバックしてください。

君ある故郷と半分こ③

貴族院アレキサンドリア寮へようこそおいでくださいました、シーナローゼ様」

どうやらアレキサンドリア寮に着いたようです。
目の前からお母様とお父様、そしてゲラースヴァーネがいなくなったことから自分が転移したのだと分かりますが、
城の転移の間と寮の転移の間があまりにも同じなので、わたくしは一瞬自分ではなく、お母様たちが転移したのではないかと思いました。

ホールに移動すると新入生を歓待するための席が設けられています。
お姉様に聞いた通りですわ!
成人の側仕えがわたくしのお部屋を整えている間に見習いの側近たちと談笑していると、お姉様が優雅に階段を降りてくるのが見えました。

ファランディーヌお姉様!」

お姉様は今年六年生。すでに婚約者も内定しています。
お父様譲りの薄い青みがかった髪を長く伸ばし、上半分を緩く纏められ、お姉様が動くたびにキラキラと艶のある髪が流れます。
瞳は蕩ける蜂蜜色で、お姉様に見つめられた人は皆お姉様の虜になると専らの噂です。
…はぅん、いつみても美しいですわ。

「シーナローゼ、よく来ましたね。歓迎いたしますわ」

お淑やかで、別段声が大きいというわけでもないのにお姉様の声はよく届きます。
おそらく人を集中させる何かがお姉様には備わっているのです。

「ありがとう存じます、お姉様。アレキサンドリアのお城と寮はあまり変わらないのですね」
「ふふ、そうですね。…けれどここでは、城とは違い領主候補生が皆を率いなくてはなりません。領地にいるときよりも慎重な行動を心掛けなければなりませんよ?」

うう、さっそく釘を刺されました。
わたくしが浮かれているのを見抜かれたようです。

「はい、お姉様。…ところでお兄様はどちらに?」

こういうときは逃げるに限ります。話題を変えましょう。

「…ラウルヴィンデには、わたくしと彼の護衛騎士と上級生の騎士見習いを率いて採集場所の魔獣退治と素材採集に行ってもらいました。一年生が授業で使う分の素材は彼らが獲ってくるでしょう」
「え?自分でとりにはいかないのですか?」
「シーナローゼ、採集には危険がつきものなのですよ。入寮したばかりの、武器も魔力も上手く使えない一年生を連れて行ったらどうなると思って?」
「…場がとても混乱します」
「そうですね。それに騎獣も持たないのですから…」

ファランディーヌお姉様による講義が始まりそうな予感がした瞬間。ラウルヴィンデお兄様たちが帰寮しました。
ああ!ドレッファングーアはわたくしに味方しました!