ペンを額に

霜月のブログ。当ブログは記事に大いに作品のネタバレを含みます。合わない方はバックしてください。

二人のフェルディナンド①

アレキフェル meets エーレンフェル
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城の転移陣でローゼマインが貴族院に行くのを見届けたのが数週前。
アウブの不在期間中に執務をこなしていたときのことだった。

突然強烈な眠りが襲ってきて、私の記憶はそこで途切れた。



ここは……?
どうやら自身の隠し部屋のようだ。
けれど、おかしい。
この地がアレキサンドリアとなってから、私の隠し部屋にある長椅子は全てスプリング入りのものに変えたのだ。
なのに、座面の硬い長椅子に私は座っていた。
まるで時が戻ったかのような悪夢ではないか。



私は居ても立ってもいられず、外に出るため扉に手をかけた。

「ーーーッ!」

開かない。
何故だ!?
外から開かないような魔術が施されたのだろうか?
私は……いや、ローゼマインは?無事だろうか?
この冬にアレキサンドリアの不穏分子を炙り出す計画を立てていた。それが漏れたのだろうか?私は敵の術中に嵌まったのか?
敵もアウブの不在期間を待っていたのか?
頭のなかを整理していると、扉が開く気配がした。
すかさずシュタープを構え臨戦態勢をとる。


入ってきたのは青の衣を身に着けた、私に良く似た男だったーーー




私の姿を認めた男は一瞬の動揺の後にすぐにシュタープを構えた。
シュタープに魔力を集中させながら、底冷えのする声で問いかけられる。

「……誰だ。私の隠し部屋で何をしている?」

「……ここは、其方の隠し部屋なのか?」

「誰の隠し部屋かも分からずに侵入したというのか?そんな戯言が通じるとでも?」

「其方、青色神官か……」


目の前に居るのはどう見ても過去、神官としてエーレンフェストに留まっていた自身である。
アレキサンドリアではなくエーレンフェスト。現在ではなく過去。場所と時間が変わっていると仮定すると……

この摩訶不思議な状況は神々が関与している疑いがある。また、神々か……
フェルディナンドの眉間に深い皺が刻まれた。

「其方は何者かと聞いている!」

今にも攻撃を繰り出しそうな声にハッと意識を目の前の男に戻す。
私の無反応さと情報の無さ、隠し部屋という最も私的な場所へ他の侵入を許したことに苛立っているようだった。

「何者かと聞かれると、エーレンフェストの領主候補生フェルディナンドと答えるほか無いな」

「嘘をつくな」

「……怪しいと思うならばシュタープの帯で縛れば良い。違うか?」

私はシュタープを消し、手の平に何も持っていないことを見せつつ捕縛されるのを待った。
私の提案を訝しんだのか目を細め逡巡する男。

「絶対に動くな。動けば斬る」

金色の帯が体に巻き付き縛り上げられる。

「これで少しは安心出来たのではないか?エーレンフェストに其方の帯を断ち切れる者はそういないはずだ」

「再度聞こう。其方は何者だ?」

シュタープを喉元に突きつけられ詰問される。
縛られたことによって説明がしやすくなった。

「クインタ。私は未来からやってきた其方だ。信じられずとも其方がメスティオノーラの英知の欠片を持っていることを知っている。それに、そなたが出した帯もこのように……」

少し力を入れれば簡単に捕縛は解けた。

「私は未来の其方なのだから其方より魔力が多くて当然だな」

一気に捲し立てれば、目の前の男は固まったまま動かなくなった。

これがローゼマインの言っていた、ショリオチか?