ペンを額に

霜月のブログ。当ブログは記事に大いに作品のネタバレを含みます。合わない方はバックしてください。

記憶の底⑤

「きゃああああああ!」

「エグランティーヌ様!?ツェント!?失礼いたします!」

側仕えが天幕のなかに飛び込んでくる。
自分の声で目を覚ましたエグランティーヌは、肩で息をしていた。


昼にジェルヴァージオの記憶を覗いた。
数人の幼い次期王候補たち。
一室に集められたかと思うと、一番魔力の少ない者が何かを飲まされていた。
すると男の子の額に大粒の汗が吹き出し始めた。
顔を真っ赤にしながら体を折り曲げ、男の子は必死に何かを耐えていた。
エグランティーヌは悪い予感に震えた。
何かに似ていると思ったのだ。
その答えが出る前に、男の子の皮膚がボコボコと膨れ上がる。
「たす、けて……」
こちらに助けを求めた目。
涙が落ちきる前に、その体は破裂した。



エグランティーヌは吐き気を催し、ジェルヴァージオとの面会を中断せざるをえなくなった。
幾分気分が落ち着いたとき、既視感の正体が分かった。
あれは始まりの庭で、ローゼマイン様が神々に多大な祝福をいただいたときの苦しみ方に似ていたのだ、と。



「エグランティーヌ様、酷く汗をかいていらっしゃいます。どうか果実水をお飲みくださいませ」

「……ええ」

震える手では上手く杯を持てず、側仕えに補助されながらエグランティーヌは中身を全て飲み干した。
その後、もう一度湯浴みをしてから寝台に入りましょうという側仕えの提案に従ってエグランティーヌは湯舟に浸かっていた。
アナスタージウスがエグランティーヌの不調に気づかぬはずがない。
きっとジェルヴァージオの記憶をもう覗くなと言ってくるだろう。
エグランティーヌも本心では覗きたくなどない。しかし、ツェントの業務に私情を挟むなど論外。
エグランティーヌにはジェルヴァージオの記憶を再度覗くという選択肢しか無いのだった。