ペンを額に

霜月のブログ。当ブログは記事に大いに作品のネタバレを含みます。合わない方はバックしてください。

記憶の底②

真っ暗。

暗闇がどこまでも続く空間。

目の前に手を出そうとして諦める。

暗闇であろうとなかろうと、己の手が目の前にくることはもはやない。



「聞こえていますか?」

「……」

「わたくしは、なぜ貴方がユルゲンシュミットに来て、ツェント位を簒奪しようとしたのか知らなければなりません」

「……」

「ツェントであるわたくしは、ランツェナーヴェと貴方のことを知らなければならないのです」

「……其方がツェント?」

「ええ、そうです」

「ユルゲンシュミットは、また、メスティオノーラの書も持たぬ者をツェントに据えたのか?」

「……わたくしは持っております」

「フッ……そうか。それで?まず何が知りたいのだ」

「ジェルヴァージオ、貴方のことを全て教えてください」

「……」

「思い浮かべるだけで良いのです。過去を……」


過去……

恐怖と恥辱と憤怒にまみれた過去をこの女は知りたいのか?
物好きなことだ。
知りたいのなら教えてやろう。
ただし、後戻りは出来ぬ。

人の心を無礼に覗き見るのだから、それくらい覚悟あってのことだろう?