真っ暗。
暗闇がどこまでも続く空間。
目の前に手を出そうとして諦める。
暗闇であろうとなかろうと、己の手が目の前にくることはもはやない。
「聞こえていますか?」
「……」
「わたくしは、なぜ貴方がユルゲンシュミットに来て、ツェント位を簒奪しようとしたのか知らなければなりません」
「……」
「ツェントであるわたくしは、ランツェナーヴェと貴方のことを知らなければならないのです」
「……其方がツェント?」
「ええ、そうです」
「ユルゲンシュミットは、また、メスティオノーラの書も持たぬ者をツェントに据えたのか?」
「……わたくしは持っております」
「フッ……そうか。それで?まず何が知りたいのだ」
「ジェルヴァージオ、貴方のことを全て教えてください」
「……」
「思い浮かべるだけで良いのです。過去を……」
過去……
恐怖と恥辱と憤怒にまみれた過去をこの女は知りたいのか?
物好きなことだ。
知りたいのなら教えてやろう。
ただし、後戻りは出来ぬ。
人の心を無礼に覗き見るのだから、それくらい覚悟あってのことだろう?