ペンを額に

霜月のブログ。当ブログは記事に大いに作品のネタバレを含みます。合わない方はバックしてください。

朝霧 sideフェルディナンド (各々好きな時期を想像してください)

いつのまにか自室が家族からの贈り物に溢れてることに気づいた。
マントを私に着せかけようとユストクスが近づいてくる。
私の顔を見た瞬間ユストクスの動きが止まり、驚きの表情を晒す。珍しいな。
「どう、なさったのですか。フェルディナンド様」
何を言っているのか。そういえば頬に違和感がある。
手をやると指が濡れた。涙?
慌ててユストクスの問いかけには答えず隠し部屋へと入る。

「なぜ涙が・・・?」
知らない間に涙が零れていたなど今までには無い。異常事態である。

しばらくして隠し部屋から出ると、心配そうなユストクスがいた。

「今あったことは他言しないように」
「何か御憂慮されることでも?」
「いや、何もない。本当だ。…ただ」
「ただ?」
「いろいろなものが目に入ってな…。マントやら、他にも」
「ああ…」

それだけでユストクスは全て理解したようだが、生憎と主である自分が理解出来ていない。
それを察したのだろう、優秀な側仕えはそっと答えを教えてくれた。

「嬉し涙、でございましょう」

これが。
あの日、マインが流した美しい涙と同じものなのか。
あのように誰かを想い。誰かを守り。誰かから愛されているのか。
絶対に手に入ることのないものとして諦めていたもの。
それが。こんなにも。私の中にもあるというのか。




ユストクスの手によって、マントが留められる。
美しい全ての女神の色であり、
アレキサンドリアの色であり、
私の、愛する家族の色である。