今日は暑かった〜〜
近所でお祭りがあり、勢いで書きました。
甘いです。短いです。
原作があ〜〜んな状態なので、私の頭の中の安定期の彼らで物語をお送りしております。
こんなの、あの二人じゃない!とか思っても知りませんww
どっちつかずな単語とかありますが、意味は同じものなのでスルーでお願いします。(例:ルナン、月人)
どんなものでもいいわ♪という心の広いお姉様・お兄様のみお読みください。
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人々のざわめきがカイの感情を揺さぶる。
帳も落ちた今の時間涼やかな虫の音(ね)とゆるやかな風が吹いているこの場所は、人は居心地が良いと表現するのだろう……
小山に建つこの神社には見放されたように人がいない、いわゆる「穴場」らしいが、人よりも敏感にものが感じられるカイにとっては遠くから響いてくる感情の多さに少しも心休まる場所ではなかった。
溜息をつきたい心持ちだが、下の屋台提灯の連なりを眺め、あの人ごみよりは数倍もマシだろうと思い直して、待ち人を待つ。
三四郎とカイは休暇を合わせて、地球へとやって来ていた。
最初はあまり乗り気ではなかった三四郎だが、来てみれば彼のほうがはしゃいでいる始末である。今だって二人は一緒にこの場所へやって来たというのに、三四郎は遠くから小さく聞こえてくる太鼓や笛の音—いかにも楽しそうな雰囲気—に惹かれ、腰を落ち着ける間もなくそそくさと階段を降りていった。
三四郎にはこんなひっそりと静かなところよりも、下の騒々しい、もっといえば喧嘩っ早い男たちがわんさかいる場所のほうが如何にも似合いそうだと目を伏せながら唇を僅かに綻ばせた。
縁側に背筋を伸ばして座り、足先にある草をなんともなしに眺めているとカコンカコンという足音が小さく聞こえてきた。
「あんたがいなかったから、一人分しか買えなかったぜ。」
片手にビール、片手にたこ焼きを持ち、恨みがましい顔でカイと再会した三四郎だがすぐに楽しい感情に切り替わったのを感じた。もともと怒っていたわけではないのだ。縁側にゆらゆらと近づき、カイの横に食べ物を置くと自分もその隣に下駄を放り出して胡坐をかいた。三四郎の感情は下にいる人間たちと同じものであるのに不思議と心地良かった。
「私は食べないから構わない。」
「この暑いなかビールも飲まないっていうのかよ!?」
呆れ顔に覗き込まれ、馬鹿にされたようで顔を背けると後ろからバイザーを取られた。
「それと、あんたのコレ、似合わねーよ。」
見ていて暑っ苦しいんだよ、と文句垂れる男にカイはその美しい柳眉を逆立て振り返った。
「返せ。」
「ヤダね。誰もいねーし、キモノに似合わないっつってんだろ!」
彼らが着ているのははユカタだったが、三四郎にそんなことを説明しても意味がないことを知っているカイは小さく溜息をついてやり過ごすことにした。
「おまえが服装のセンスを持ち合わせているとは意外だな。」
その瞳を紅く煌めかせ、口角を持ち上げて呟くと嫌味も人を魅了するものとなるから凄まじい。ルナンのカレイドスコープアイは夕闇に吸い込まれることもなく、逆にその闇すら吸い込んで妖しい輝きを増してさえいる。
カイの嫌味を鼻で笑い飛ばした三四郎が、現れたその瞳を楽しむように見つめる。
真紅の瞳に徐々に緑や橙が混ざっていく。一瞬として定まることを知らない万華鏡は見る人を飽きさせることは無い。
今やその瞳は薄紫で、ほんの少し赤や黄色を帯びているものになっていた。
と、三四郎がおもむろに手を伸ばした。
自分に伸ばされることを知ったカイが身を引く前に、その手は易々とカイの前髪に触れた。そしてそのまま、灰青がかった髪の間に分け入っていく。
振り払おうかと思ったが、その気持ちよさに引っ張られる。
ゆっくりと後ろに梳く指先を感じながら、それでも抵抗を試みようと相手の長く垂れた袖を握りしめる。
形ばかりの抵抗を嘲笑うかのように、髪を梳いた男の手がカイの耳朶を撫でるように触れた。
「————っ!」
先ほどとは違う意味でカイが眉根を寄せると、三四郎の唇から牙が零れた。
耳朶を伝った手がその細い頤を持ち上げるように沿わされていくのと同時に、もう片方の手で食べ物を後ろへ押しやって、カイの腰に這わせると力強く抱き寄せた。
「三四郎っ!」
「——なんだ?」
相手の名前を呼んだもののなんと言ったらいいのか分からず口籠っていると、三四郎の顔がゆっくりと近づいてきた。顔を支えられている手に逃げることも敵わず、相手のペースに乗せられ口づけをしてしまうであろう自分への口惜しさから、せめて目だけは瞑るまいとカイはその瞼に命令した。
遠くに聞こえていた太鼓や虫の音さえも聞こえなくなって、耳が拾う濡れた音に脳まで溶かされそうになったとき、漆黒の闇を奪う光が夜空に現れ、その爆音がカイの鼓膜を震わせた。
その光と音に驚き、咄嗟に離れた二人が宙に見たものは満開に咲く大輪の花火であった。
「うひゃ〜、スッゲーなー。」
三四郎の顔が横を向き、夜空を彩ったその輝きに目を向ける。
三四郎を習ってカイもその輝きに目を細めていたが、数発上がったところで既に飽きてしまっていた。というのも花火が上がり始めてから一層に人々の感情が強くなって—しかも、数十万人が同じ感情を抱くものだから—とてもじゃないが集中出来ないのだ。
内心辟易としながら、隣にいる感情を感知しない男を恨みがましく見遣ると三四郎は実に楽しそうに次々と上がる色とりどりの花火を眺めていた。
自分の不機嫌さが伝われば良いとばかりに男の瞳を見詰めていると、その瞳に花火が映った。夜空と同質の三四郎の漆黒の瞳。その瞳を次々と、色とりどりの花火が満たす様は、さながらカレイドスコープアイのようだ。自身の輝きとは違うその万華鏡は、しかし、カイという月人を大いに魅了させた。カイしか知らない、カイだけのカレイドスコープアイズ。
ルナンの瞳を見つめる人間の気持ちというのは、こういう感じなのだろうか……?
どのくらい見つめていただろうか。
ずっと見ていると三四郎の瞳は万華鏡と言うよりは超新星爆発、一つの星の死の瞬間の儚くも美しい雄大な姿の縮図を見ているようにカイには思えてきた。
奇麗である……が、同時にその瞳は自分を捉えていないことにも気づき始めていた。
風が吹く。
俯いた顔の前髪を揺らすと、カイはそっと三四郎の顎に手を触れた。
見詰めていることに気づいているはずなのに、いっかな彼の頭は花火に向いたままだ。
先程の否応なく中断された口づけの火種が燻り、男の態度がカイを焦らせ、さらに体が熱くなるのが分かった。
手に少し力を加えると三四郎の頭が名残惜し気に自分のほうへ向く。
しかし、彼の興味は依然として花火に注がれていることにカイは気づいていた。
カイとのセックスも捨てがたいが、花火も捨て難い、そういうことらしい。
苛立ち交じりに緩く口角を持ち上げ微笑むと、もう片方の手を三四郎の胸に沿わし、猫のように擦り寄った。
「……こうすれば花火も、私も、味わえる。」
三四郎の耳に息を吹き込むほどの近さで囁いて、カイは三四郎を押し倒すように、縁側へ転がった。
そうしてしまうとカイには花火が見れなくなるが、一向に構わなかった。
カイには三四郎の瞳の中に映るもののほうが重要だった。
仰向けに倒された三四郎の瞳に花火を背景に自分が映り込むのを見た。
しかし、こんなものでは到底満足していない。
言葉とは裏腹にカイは三四郎が花火を見ることを許してはいないのだ。
三四郎の肌蹴た太ももに自分で裾を割り露出させた太ももをゆっくりと擦り合わせながら彼の胸に凭れかかると、三四郎の腕が背中に回り大きな手が背骨を撫でた。
「ふっ……ん……」
ざわざわと肌が粟立つのを感じながら、触れあっている太ももを意識して動かすと三四郎の瞼が軽く閉じられ眉が秘かに寄せられる。
そのことに気を良くしたカイは、伸びていた膝を引き戻し足先を相手の足下に潜り込ませるようにして更に足を絡めだした。
「っぅ———!」
三四郎の手がカイの腰の位置で止まり、キツくその浴衣を掴む。三四郎の胸に肘をついて体を反らし、険しくなっていく三四郎の表情をカイは上から眺めていた。
そして、三四郎の瞳がゆるゆると開き、真正面から自分を覗き込む情欲を灯した漆黒の瞳と出会ったとき、カイの背筋に快感という電流が走った。
カイがビールに手を伸ばし三四郎の瞳を見ながら呷っていると、こういうことには勘の冴える男が己の酒を飲んでいる不埒な男を見つけ信じられないという顔をした。
「カイっ、それは俺のじゃねーか!何飲んでるんだよ!!」
行為が終わった後、残り僅かな花火を見なければと使命感に燃えている三四郎に再び苛立ちを覚え、嫌がらせもかねた子どもっぽい行動をとっていたカイは、三四郎の瞳が花火から逸れたことに溜飲を下げた。
「別に構わないだろう?こんなにあるんだから。」
「こんなにあっても、あんたが飲んだら俺の分が減るんだよ!!」
「では、こちらを頂く。」
「ああっ!!俺のたこ焼きまで食べやがったな!これはっ——フゴッ!?」
喚き散らす口にたこ焼きを突っ込むと、口に入っているたこ焼きのせいで上手く文句を言えずにいる三四郎の可笑しな顔を見て、カイ自身モグモグと咀嚼しながらくぐもった声で笑い、苦しくて涙が出た。
そしてカイは自分より早く食べ終えてしまうであろう相手の口をもう一回塞ぐ為の新たなたこ焼きに楊枝を刺した。