「フェルディナンド様!フェルディナンド様!」
妻が胸を叩いてくる。
彼女にしては早起きではないか?一体何事だろうか。
「うふふん!わたくし良いコトを思いついたのです!」
彼女の言う良いコト、は大抵良いコトではない。
彼女の思い付きは利を齎す以上に厄介事でもあるのだ。
わざわざ休みの日に頭を使いたいわけではない。
ローゼマインの腰をガシッと掴み己に引き寄せ抱き込む。
「へわっ!?なんですか!?」
まずは彼女の捕獲が最優先。
私の腕の中にいる限り、ローゼマインが暴走することはない。
私が後始末に奔走することもない。
彼女の背中に回した手で心地良いリズムを刻む。
ほーら、眠れ眠れ。
「ぎゅー気持ち良い、です」
ローゼマインが頭をグリグリと胸に擦り付け、クンクンと匂いを嗅いだ。しばらくするとそのまま動かなくなる。
後には規則正しい呼吸音だけが聞こえる。
「ハァ……」
どうせ起きたら、ローゼマインはまたさっきの話をし出すのだろう。
それを止めることは出来ぬ。
しかし、今日のこの朝の束の間の平穏だけは守られたのではなかろうか。