ペンを額に

霜月のブログ。当ブログは記事に大いに作品のネタバレを含みます。合わない方はバックしてください。

!注意!【誘拐・殺人】フェルが犯罪を犯しているので、無理な人は読まないように。なんでこんな話作ったか謎

今日もローゼマインはくるくる動く。

彼女を誘拐したのは5年前。
夢に出てきた、あの少女に似ていたからだ。
彼女の両親は未だ愛娘を探しているだろうが、もはや彼女は両親のことなど忘れたように私に優しく微笑みかける。
ストックホルム症候群と子供特有の適応能力の高さゆえだろう。
彼女のなかで私と共に生活することは、すでに「日常」だ。



「フェルディナンド様はお医者様なんですか?」
「……医師免許は持っている。だが医者ではない。人を助けようと思ったことがない」
「え?じゃあなんで免許を取ったんですか?」
「人体について詳しく知りたかったからだ」



医学部に入って様々なことを学んだ。
それは人の生かし方でもあったし、人の殺し方でもあった。
殺し方を知っているからこそ、助け方を知っていると言っても良い。



「今日もまた『実験』ですか?」
「そうだ。部屋から出るまで食事はいらない。昼は一人で食べなさい」
「はぁい」



パタパタと食堂から出て行ったローゼマインは、自室で勉強でもするのだろう。
ポニーテールが揺れる背中を見届けて、私は一人洋館の暗い廊下を突き進む。



部屋の中には男がいた。
すでに死亡していることを確認し、解剖を始める。
食事に毒を入れていたので死ぬことは予定通りなのだが、果たして中身はどうだろうか……
研究も大詰めに差し掛かり、嫌でも心が浮き立つ。
胃。変色や異常は認められない。内壁はとても綺麗だ。
胃の一部を切り取り、後で詳しく調べることにする。
内容物も共に取り出す。
小腸、大腸、他の臓器も調べる。
口を開けさせ、頬、舌、歯についているものを探針で削り取る。
すでに固まっている血液。毛髪。爪なども採取する。
少しでも体に毒の痕跡が残っていないか、隅々まで調べつくす。



第一段階はクリアだろう。
機器類を使用可能な状態にし、部屋を出る。
すでに夕方だった。楽しい時間はあっという間に過ぎる。


「あ!やっと出てきた。フェルディナンド様、ご飯食べますよね?」
「ああ」
「『実験』は上手く行ってますか?」
「まぁまぁ、だ。これから細かく調べていく必要がある」


ローゼマインと会話しながら、しかし、頭の中は毒を調べるための様々な方法・手順を考えていた。
私は自然死に見える暗殺用の毒を開発しているのだった。
それを欲しているのは私ではなく『客』だが、そんなことはどうでも良い。
面白そうだと思って依頼を受け、研究し続けていた。



私が成功だと確信出来るまで慎重に慎重を重ね調べ尽くし、やっと作った毒が完璧であると認めることが出来たのは一ヶ月後だった。


「明日は業者が来るから、あまり部屋から出ないように」
「なんの業者ですか?」
「実験で死んだ『マウス』たちは供養に出してるからな」
「そうですか……」
「その後、『お客様』も来る予定だ」
「部屋で静かにしていますね」
「頼む」
「フェルディナンド様は、これで少しのんびり出来ますね」


ふふっと微笑む君に私は目を細めた。