今日は外に本を持ち出してみる。
保存の観点からすれば最悪だが、これはマイ本!傷がつこうが日に焼けようが私の勝手なのである!
うふふん、ふふん。
今日は読書日和だな~
私は庭の木を背もたれに表紙を捲った。
「ごほっ!ごっほ!!」
ん?何か聞こえる?
そんなことないよね。
「う゛う゛ん!」
もう、読書してるんだからお静かに。
「あ~、あ~!」
・・・なんなのだろう。
私は短く溜息をつくと、胡乱気に音の発生源を探した。
水色のウサギがいた。
しかも二足歩行でずいぶん大きく、洋服まで着ていた。
薄い金色の瞳と目が合ったと思ったら、水色ウサギは大きな声で独り言を言い始めた。
「ああ、忙しい、忙しい」
少し進んではチラッ、少し進んではチラッとこちらを振り返る。
一体、なんなのだろう。
人の言葉を話すウサギとは、珍妙な生き物である。
しかし、急いでいるのならばさっさと行けばいいものを。
立ち止まったかと思えば、考え事をしている風にぐるぐる歩いている。
なんかちょっとずつ戻ってきてない?
けれども、そんなウサギを追求することと膝の上のマイ本を読み進めること、どちらが大事かと問われれば間違いなく後者である。
私はさっきまで読んでいた箇所を見つけると、何もかも忘れて読書にのめり込んだ。
最後のページを読み終えると、私は本を閉じた。
ふぅ、大満足だね。
「満足そうだな」
びっくりして、隣を見る。
私と同じように木にもたれかかって、足を投げ出してる水色ウサギ。
・・・まだいたんだ。
「君のせいで大遅刻だ」
「一体何に遅れたのですか」
「君が知る必要はない」
そうですか。
「大遅刻だとどうなるのですか」
「女王から罰せられる」
「どんな罰なのですか」
「君が知る必要はない」
う~ん、もう家に帰っていいよね?
「・・・肌寒くなってきましたね。私戻りますね。ウサギさんもお気をつけて」
服についた埃を軽く払うと本を抱えて家に向かって歩き出す。
しばらく歩いて後ろを振り返ると、水色ウサギはさっきと同じ態勢のまま木にもたれ微動だにしていなかった。
薄暗くなってきた周囲とも相まって、なんだかもの悲しい雰囲気を醸し出している。
まるで置き忘れられた人形みたいだね。
「そこ、寒くありませんか」
「・・・戻ってきたのか?私には被毛があるし、服も着ている」
「ウサギさんは帰らないのですか?」
「私はフェルディナンドだ。先程言ったであろう、戻れば罰せられる」
「では、戻らなければいいのですね?」
よかったぁ。一匹くらいなら家でも飼ってもらえると思うんだよね。
「ふふ、少し不思議なウサギさんですが、私の家族はみんな良い人ですから大丈夫ですよ」
ウサギさん、フェルディナンドは金色の瞳をまん丸に開いたかと思うとなんとも言えない顔をして耳をピクピク動かした。
フェルディナンドの手を握る。
「私はローゼマイン、これからよろしくお願いしますね」