ペンを額に

霜月のブログ。当ブログは記事に大いに作品のネタバレを含みます。合わない方はバックしてください。

カイと三四郎

カイは動物として生まれた。
そして、生きた。
数多の人間から動物として愛された。
そして彼も数多の人間を「人間」として愛した。

ドレイクという人間に愛された。
それは、変な愛し方だった。
カイは居心地が悪かった。
そんな愛され方は初めてだった。

それでも愛情は愛情だ。
自分もドレイクを愛したかった。
そして、愛した。
「動物」として最大級の愛情を示した。



ドレイクは苦悩していた。
カイは分からなかった。
カイは動物だった。
でも彼が苦しんでいるのだけは分かった。
自分の行動が彼を苦しめているのが分かった。
「動物」の愛し方は彼に気に入ってもらえなかった。
でも、これしか知らなかった。
どうしようと思った。
彼に愛されたかった。


自分の愛し方を否定された。
でも、怒りよりも悲しみのほうが大きかった。
彼に愛されたかった。
彼を愛したかった。

「人間」が分からなかった。
彼が分からなかった。
自分は「動物」だった。


動物の愛し方に誇りを持てなくなった。
彼に認められない動物の愛し方なんて自分にとってなんら価値を見いだせなたった。
こんな愛し方しか知らない自分が嫌になった。
こんな自分が嫌になった。
動物として生きてきた自分が嫌になった。
動物の自分を捨てたかった。
はやく捨てたかった。

何かを得たかった。
彼に認められる何かを得たかった。
動物以外の自分なら認めてもらえる気がした。
動物はもはやカイの誇りではなかった。


なんで自分は動物だったんだろう。
なんで今まで動物として生きていることに誇りをもてていたんだろう。
なんであんなに楽しかったんだろう。
なんで気づいてしまったんだろう。




——————いったい「私」はなんなのだろう






まわりに目を向けてみた。
こんなことをしたのは初めてだった。
今まで自分しか見なかった。
否、自分しかなかった。
それで十分だったし、それが重要だった。



まわりは「人間」だらけだった。
「人間」しかいなかった。


絶望した。
自分は異物だった。



どこに行っても私は「動物」として見られた。
「動物」として期待された。
「動物」としてそぐわない言動をすると驚かれた。
とても苛立たしかった。


そして気づいた。
気になった。
「ドレイク」も私を「動物」として見ているのだろうかと。


耐えられなかった。
「ドレイク」にだけは絶対に「動物」として見られたくなかった。



私は「動物」であることをやめたのだ。
「動物」なんて必要ないのだ。
「動物」に見られたくなんてなかった。
「動物」であることを見破られたくなかった。
「動物」であることを隠したかった。


私は隠した、必死に、必死に、必死に

皆が私に「動物」を嗅ぎ付けないよう隠し続けたのだ。





三四郎」と出会った。


三四郎は私が「月人」であることを知った。
でも理解していないようだった。
理解していないから、なんら私に期待することも無いようだった。
有難かった。
私は「動物」であることを忘れられた。
私は「動物」であることを隠さなくても良くなった。
彼から出る「月人」という言葉は他人事のように感じた。


彼もまた不思議な愛し方だった。
ドレイクと同じで違う愛し方だった。


彼と抱き合うことは私が「動物」であると自分に確認させるようなものであった。
しかし、同時に彼と抱き合っているあいだは自分が「動物」であるということを忘れさせた。


彼は「動物」である私を抱いている。
しかし彼にとって私は「動物」ではなかった。


彼は「動物」である私の体を抱くと同時に「動物でない」私の気持ちを抱いていた。


「動物でない私」

———————————私の望んだものだった。