「小夜の眠りはいつもより長いかも知れません。一人で眠るのは初めてのことですから」
「一人?」
「……ディーヴァです」
「ディーヴァがいなくなると、ダメなのか?」
「分かりません。しかし、二人は呼応するように眠りと活動を繰り返していました……」
「そうか……。三十年後にはまた会えると思ってたけど、難しいのかな?」
「小夜が満足するまで、眠らせてあげてください」
「……ああ」
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……
コワイ……
何かが、足りない
外に、いない
あの子は、どこ?
あの子は、ダレ?
コワイ……
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「……小夜?」
小夜はいつ目覚めるのか。
大丈夫。私は彼女の目覚めを待つだけ。いつまでも、待っていられる。
いつまでも……
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目覚めは唐突だった。
目の前の邪魔な糸を引きちぎる。
視界がぼやける。
でも、進まなくちゃ。
眩しい。
でも、もっと明るい場所へ!
ナニかが目の前にあった。
匂いがする。
美味しそうな匂い。
そうだ、私はお腹が空いてるのよ!
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首筋に荒い息がかかる。
牙を立てられ、血を吸われる。
小夜が目覚めた。
それだけで、幸せなのに。
体から血液が奪われていくと同時に、ハジの心は満ち満ちた。
もとより、女王に血を捧げるというのはシュヴァリエにとって大変悦ばしいことである。
自分の血肉が、そのまま彼女の力となる。
何も介することのない純粋な奉仕。
彼女が本当に覚醒すれば、もう吸血されることはない。
吸血行為そのものを忌まわしく思っている小夜だから、彼女が苦しむ様は見たくなかった。
だから、これは束の間の幸せ。
そう、小夜が覚醒しきる前のシュヴァリエとしての。
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「ハジ……?」
「小夜、おはようございます。よく眠れましたか?」
「うん……え?夢?」
「夢ではありません」
「ハジがいる……」
「はい」
「う、そ。ハジ――っ!!」
腕の中でひとしきり泣いた彼女は、そのまま疲れて眠ってしまった。
目元が赤く痛々しい。
彼女が自分の生還を喜んでくれたことが嬉しかった。
今も自分を必要としてくれる彼女が愛しかった。
涙の跡が残る頬にそっと手を添え、真摯に囁く。
「小夜、私だけはいつまでも貴女の側にいます。だから……」
哀しまないで。苦しまないで。
そのどれも言えず、ハジは目を閉じた。
容赦のない現実は、すぐそこにあった。
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